ブックレビュー『多肉植物&コーデックス GuideBook』初の本格的な塊根植物入門書

待ちに待った、塊根植物・コーデックスの入門者向けの書籍『多肉植物&コーデックス GuideBook』が今年 2 月に刊行されました(1月から一部で先行販売)。

昨今の植物ブームの前から、多肉植物や観葉植物について栽培方法をまとめた書籍は数多くありました。しかしコーデックスはこれまで一部の愛好者にしかその価値を認められておらず、ネットの不確かな情報に頼り試行錯誤する状況が続いています。

今回発売された『多肉植物&コーデックス GuideBook』は、本邦初のコーデックスの特徴と栽培方法を広くまとめた入門書といえます。

塊根植物の入門書としておすすめ

多肉植物&コーデックス GuideBook

多肉植物&コーデックス GuideBook

これまでに刊行されている塊根植物・コーデックスに関する書籍は写真ばかりのカタログのようなもので内容が乏しく、初心者に室内でずっと管理できると誤解を与えかねないものでした。

本書を読んでみて、以下の点から塊根植物の入門書として初心者にもおすすめできると感じたポイントを 3 つご紹介します。

原産地・性質・年間を通じた管理方法まとめた『育て方図鑑』

本書のメインコンテンツ『育て方図鑑』はコーデックスを栽培管理する上で指針となる情報がまとめられており、特に成育期と休眠(半休眠)期に応じた置き場所・水やり・肥料が一目でわかる栽培カレンダーは季節ごとに見る価値があります。

もう少し詳しい説明が欲しいと感じる部分は残るものの、栽培カレンダーと植物の状態を見比べながら次の季節の管理に移るタイミングを検討することができる、実用に足る内容となっています。

ただしコーデックスや多肉植物は住環境や個体差によってカレンダーで「休眠」となっていても休眠しなかったり、大きく時期がずれることがあります。このあたりはほぼ暦通りに動く花卉類と異なり、マニュアル化の難しいところです。

自生地の特徴と自生する姿を採録

イサロ地方 パキポディウム

マダガスカルイサロに自生するパキポディウム / Leonora (Ellie) Enking

塊根植物の故郷であるマダガスカル・南アフリカ・ナミビア・マダガスカルの気候の特徴と、現地に自生する姿が採録されています。植物が本来生息する環境を知ることは、どのような環境が適していて何に注意すべきかの判断へとつながるでしょう。

例えばパキポディウムであれば同じマダガスカルであっても自生地によって環境が異なるため、年間を通じて高温な気候の続く北部のウィンゾリーは寒さに弱く、気温差の生じる南西部のグラキリスはそれよりも耐寒性があることになります。

またコーデックス・多肉植物の多くが乾燥地帯に自生するため湿気を嫌い、日本の梅雨の時期は特に注意が必要だと分かります。

コーデックスの栽培の難しさが実直に書かれている

コーデックスは室内では育てられない」「買ったばかりの株(現地球)をすぐに植え替えてはいけない」「現地球は枯れやすい」と栽培が決して容易でないことが明記されています。

インテリアグリーンとしてコーデックスに興味を持った場合、購入時の黒プラ鉢から好きな鉢に植え替えて直射日光の当たらない室内に飾るという、本来してはいけない 2 点が真っ先に行われがち。

高価で見た目の良い鉢も販売している業者は進んで説明しませんがとても重要なことで、真剣に長く育てたいと思っているのであれば不必要な植え替えは避け、日中は必ず屋外に置くという常識がこの本を通して浸透すれば良いなと思います。

書かれている内容は信用できるのか?

この本の企画制作は株式会社レジアで、代表であり本書のテキスト担当である石倉ヒロユキ氏はこれまでにもいくつかの園芸本を手がけています。

ネット上の情報では著者が多肉・コーデックスにどこまで精通しているのか分かりませんでしたが、この本がただの情報の寄せ集めではないと思えるのは業界の大御所の存在です。

isla del pescado が編集協力

本書の信頼度を上げているのは、なんといっても編集協力に isla del pescado(イスラ・デル・ペスカド)の名前があることでしょう。

コーデックス人気が高まる以前から運営されている isla del pescado は国内で育て方の情報を探すと必ずたどり着くサイトであり、コーデックスの栽培方法をまとめている多くのサイトから参考にされてきました。老舗のサイトが編集協力していることで「あの」サイトのお墨付きがあるのかという安心感があります。

サボテンオークション日本・栗原氏に現地球の発根管理を聞く

誰もが苦労している輸入株の発根管理に関して、賛否はあれどこれまで日本で一番多くマダガスカルから植物を輸入してきたと思われるサボテンオークション日本 栗原氏のインタビューが記載されています。

2006 年からマダガスカルから輸入を開始し、現在も年間 2〜3 万株を輸入している(!)サボテンオークション日本では、過去 12 年の経験から根の付いていない抜き苗で輸入されたコーデックスの発根・栽培方法を確立したそう。

使っている発根剤やパキプスに用いる用土などはとても参考になるのですが、本書のわずか 5 ページ(うち半分が写真)しか占めていないことは残念。アンチパターン含め管理方法についての解説をもっと充実させて欲しいところです。

なお、サボテンオークション日本では超優良株は販売せずにコレクションとして保有しており、優良株同士を交配した実生株の量産にも取り組まれています。今月開催されたサボテン・多肉植物ビッグバザールでブースを見たところ一目で将来有望と分かる実生株が多く販売されており、国産化が進んでいると感じました。

知識を身につけて充実した塊根ライフを

本書は現在 Amazon に投稿されている 7 つのレビューですべて星 5 つが付けられ、instagram などの SNS でも概ね高評価が目立ちます。

世の中にコーデックス・ビザールプランツを広める役割はすでに BRUTUS が果たしており、インテリア本は十分なので詳しい管理方法を記した園芸本が求められているということでしょう。

本書は現在知られているコーデックスの管理方法がまとめられた良書です。この試みに続いて、より詳しいコーデックス専門の園芸本が出て誰もが正しい知識を得られ充実した塊根ライフを送れるようになることを期待します。