ブックレビュー『ビザールプランツ ― 灌木系塊根植物からアガベ、ビカクシダまで、夏型珍奇植物最新情報』

今年 2 月に刊行された『多肉植物&コーデックス GuideBook』は初の本格的な塊根植物本と言える意欲的な 1 冊でしたが、その続刊とも言える本が早くも登場しました。

それが灌木系塊根・パキポディウム・アガべ・ビカクシダの 4 種にフォーカスした『ビザールプランツ ― 灌木系塊根植物からアガベ、ビカクシダまで、夏型珍奇植物最新情報』です。

ビザールプランツ ― 灌木系塊根植物からアガベ、ビカクシダまで、夏型珍奇植物最新情報

ビザールプランツ ― 灌木系塊根植物からアガベ、ビカクシダまで、夏型珍奇植物最新情報

多肉植物&コーデックス GuideBook』に引き続き主婦の友社からの出版で、企画制作も石倉ヒロユキ氏率いるレジア。資料協力 isla del pescado、取材協力サボテンオークション日本の栗原氏と前巻と同様の期待を持たせる制作陣です。

多肉コーデックスガイドブックとの違い

多肉植物&コーデックス GuideBook』では、コーデックスを「室内では育たない」、室内栽培を「論外」と断言。
インテリアグッズとしてコーデックスを買わせるようなカタログ本ではない、当たり前のことが書かれている初めての本であり多肉・コーデックス愛好家からも好評を博しました。

ただし、この本では Web で調べることのできる情報以上のものは少なく、主に初心者を対象として書かれています。また掲載されている植物はコーデックス・多肉植物という大雑把な分類であり、ソテツが含まれているなど人気種を一挙掲載した感がありました。

多肉植物&コーデックス GuideBook

主婦の友社 (2019/1/19) ¥2,138

 

今回の『ビザールプランツ ― 灌木系塊根植物から〜』に掲載されているのはコーデックスでは灌木系とパキポディウム、多肉はアガべのみ。さらにビカクシダを加えたビザールプランツとして特に人気の 4 種がフォーカスされています。

前巻では多肉植物と塊根植物という括り自体に無理がありましたが、品種を絞り込んだことで読者層がより明確になりました。そして、前書よりもさらに詳しい栽培管理方法が掲載されています。

ちょっとだけWeb情報を超えた本書

ビザールプランツ ― 灌木系塊根植物からアガベ、ビカクシダまで、夏型珍奇植物最新情報

本書には「Web情報を超えた」という挑戦的な帯が付けられています。
確かに、パキポディウムの接ぎ木方法水耕栽培によるパキプスの発根などは Web で検索してもなかなか見ることのできない、塊根植物好きには必見と言える貴重な情報です。

ビザールプランツ ― 灌木系塊根植物からアガベ、ビカクシダまで、夏型珍奇植物最新情報

ビカクシダの板付け、株分け、胞子栽培も手順がまとめられており参考になります。ビカクシダは品種ごとに湿度や耐寒性の違いがあるのですが、つい同一のものとして扱いがちなので品種別の管理方法も紹介があると良かったですね。

その他、国際多肉植物協会 小林氏の少年時代から続く多肉植物に対する情熱や、マダガスカルに滞在経験のある進化生物学研究所の橋詰氏に現地の事情など、読み物としても充実した内容になっています。

先人による実生パキポディウム

この本で印象に残ったのは都内のもつ焼き店主 中村秀明さんのパキポディウム。なんとビザールプランツブームの起こる 40 年前からパキポディウム・グラキリスをベランダ栽培しているそうで、その風貌は現地球さながら。

さらに自家採取による種子から育てた 10 年ものの実生株までが、とっぷりと丸い見事な樹形に。

なんでも実生 2 年目までは水やりをたっぷり、枝が出てからは水も肥料も控え目にするのだとか。本書では 2 ページしか記載がないのですが、実生株を育てる上で非常に参考になり浅型の素焼き鉢も真似したいと思いました。

植物にも人にも厳しい方とのことですが、このもつ焼き屋さんに是非話を伺いに行ってみたいです!

読みごたえのある塊根本

多種多様すぎる「多肉植物」の掲載をやめて灌木系塊根・パキポディウム・アガべ・ビカクシダに絞ったことでそれぞれの管理方法など情報量が増え、読みごたえのある本になりました。

1 回目を通して終わりではなく読み返すに足る内容担っており、今後パキプスを育てることがあったら、この本を取り出すと思います。

それでも目次を除くと 120 ページほどの薄い本で、巻末付近にある訪ねてみたい店 A to Z や、 GreenSnap から転載した画像とざっくり説明を乗せただけのカタログ的な品種一覧を除くと、 120 ページ中良くて 1/3 くらいがこの本の価値かなあと思います。

欲を言うと品種別にもっと掘り下げた内容の記述があり、Brutus のように自生する姿を現地で撮影するなど自生地の詳しい環境を知ることができる本が出てくることを期待します。