昨年 12 月に中国が打ち上げた月面探査機「嫦娥(じょうが)4号」は 1 月 3 日に月の裏側(東経 177.6 度、南緯 45.5 度)への着陸に成功。月の裏側への探査機の着陸は人類史上初の快挙でした。
そしてこの探査機はもう一つの人類初の試みを成功させます。嫦娥 4 号は綿花・ジャガイモ・シロイヌナズナ・アブラナなどいくつかの植物の種を搭載していました。そう、月面において地球から持ち込んだ植物を発芽させたのです。
種子などを入れた植物栽培ケースを月面に設置
NASA などの写真で見るように、月面はごつごつした岩や砂(レゴリス)だらけで植物の種を蒔くような場所は存在しません。そこで中国のチームは予め種子を地球の用土に蒔き、温度を調整できる専用のケースに入れ探査機に搭載、月面に設置しました。
月面は赤道付近で昼は 110 ℃、夜はマイナス 170 ℃になる過酷な環境です。温度を調整する機能が備わっているケース内には植物の種子のほかにもミバエの卵などが入れられており、高い放射線と低重力での環境における「小さな生態系」の再現実験を行う予定でした。
綿花の種子が月面で発芽
そして着陸後の 1 月 6 日、綿花の種子の発芽が確認されます。
Seedlings in space! First-ever cotton plant on the Moon growing in #ChangE4 mini biosphere https://t.co/L8YpXqoVIG pic.twitter.com/3NVoCBUn5M
— China Xinhua News (@XHNews) 2019年1月15日
画像からは複数の種子が発芽し、12 日の時点では幹が太く成長していることが確認できます。
宇宙の無重力下においても、温度や光といった環境をコントロールできるハードウェアさえあれば植物を発芽・開花・結実させることはこれまでにも実証されており、国際宇宙ステーション(ISS)では 2016 年に野菜栽培の実験装置で栽培した百日草が花を咲かせたこともあります。
しかし地球の重力のおよそ 17 パーセントしかない月面において種子を発芽させた例は過去になく、中国がその歴史的な一歩を刻んだことになります。
ケース内の温度が下がり全滅
しかしその後なんらかの原因によりケース内の温度を保つことができなくなり、せっかく発芽した綿花も枯れてしまったとのこと。残念ながら実験は中止を余儀なくされました。
種子の発芽に成功したということは、発芽時にケース内は 25 ℃前後であったことなりますが、昼夜の気温差が激しく、夜の期間の長い月面にて一定の温度を長期間保つことにはまだ技術的な問題が残るようです。
月面でガーデニングする未来
将来人類が月に移住しガーデニングを趣味とするのなら、安定した温度と日照の制御システムはもちろん、膨大な量の水と保水性のある用土が必要になります。
今回は地球から僅かな量の水と土を探査機に搭載し月面に持ち込むことで植物を発芽させることができましたが、種子以外はすべて現地で調達しなければいけません。
昨年 NASA による「月の極地域に水が氷の状態で存在することを確認」というニュースがあり、さらに月面の砂を用いて植物に適した用土を配合するというプロジェクト(OFF PLANET RESEARCH)も存在します。
いまは岩と砂ばかりの何もない月面一杯、花が咲き誇る未来に思いを馳せてみるのも一興ではないでしょうか。