ブックレビュー『植物は〈知性〉をもっている―20の感覚で思考する生命システム』

植物は〈知性〉をもっている―20の感覚で思考する生命システム

植物を育てていると、植物の持つ能力に驚かされることが幾度となくあります。日照不足のときにわずかでも多くの日光を得ようと、葉や茎の向きを変えること。一見面白みに欠ける無骨な外見をした植物が、突然可憐な花を咲かせること。

植物には生存のための優れたメカニズムが備わっていることは理解できますが、「知性」があると言われると少し戸惑ってしまいます。しかし、そもそも「知性」とは一体何のことでしょう。

知性 = 問題を解決する能力

自分で動き回ることのできる動物のみが知性を持ち、植物は人間の気持ちを和ます調度品のようなもの。そう思われがちですが、本書では植物が動物よりも劣った生物であるという評価を覆すため、知性を「問題を解決する能力である」(p165) と定義し、植物がもつ 20 の感覚とそれによる問題解決能力の高さを示します。

著者のステファノ・マンクーゾとアレッサンドラ・ディオラは本書を通して、人類を進化の頂点と認識している私たちの価値観の転換に挑みます。旧約聖書の創世記ではノアの方舟に動物を乗せたことしか言及されていないこと。イスラム教では生物を絵に描いてはいけないという戒律があるのに、植物や花の描写は許されてきたこと。ダーウィンの進化理論ばかりが脚光を浴び、彼の残した植物研究の成果は無視されるか過小評価されてきたこと。

「科学界にも日常生活にも共通する価値観が、植物を生物全体の最下位に追いやっている」(p44) ことが、いかに古典的で不当な評価であるかを、植物側の視点に立って訴えます。

植物の知性

人間が認知できない「知性」

本書で紹介される数々の植物の能力はまったく驚くべきものですが、それでも人間が植物を知的な生命として見れない原因は「人間よりも動きがのろく、人間に備わっているような個々の器官を欠いている」(p192) ためだとします。

そして、そんなことではいつか他の惑星のエイリアンと出会っても、地球の人間とは異なる進化を遂げた生命の知性を認識できないよと、ときにユーモラスに私たちの固定観念を解きほぐします。

植物は私たちとは別種の、進化の過程で研ぎ澄まされた優れた知性を持っています。本書を読むと、植物は下等な生物であるとの偏屈な思い込みから、彼らの知性を軽視してきたことが不思議に思われてきます。

以下は、ステファノ・マンクーゾが 2010 年に TED で講演したときの動画です。彼の研究室では半機械、半植物のハイブリッドを作る研究をしているそうです。植物の知性を借りた未来がどんなものか楽しみですね!

植物は<知性>をもっている 20の感覚で思考する生命システム

著者:ステファノ・マンクーゾ、アレッサンドラ・ヴィオラ、久保耕司(訳)
出版社:NHK出版
発売日:2015年11月20日
定価:1,944円
Kindle版:1,800円
ASIN:B018E8SKLU