植物工場

電機メーカーが植物工場事業を拡大、成長分野に

植物工場

運営コストが高く8割が赤字だと言われる国内の植物工場。有望視されていたベンチャー企業の倒産もあり収益化は難しいとされてきましたが、後発参入した電機メーカーは事業規模を拡大しています。

植物工場ベンチャー「みらい」倒産の衝撃

2009 年ごろに農水省・経済産業省などが先進的植物工場の普及に向けて多額の補助金を出したことから、多くの企業が飛びつき植物工場の第三次ブームが到来。中でも「みらい」は三井不動産と組んで国内最大級の植物工場を運営するなど、ブームを牽引する存在として脚光を浴びていました。

しかし「みらい」は野菜生産が安定せず大幅な営業赤字を計上、設備投資資金を返却できず 10 億円以上の負債を残し昨年 6 月に倒産しています。

パナソニックの試算によれば国内植物工場の約 80% が赤字の状態 [ 1 ]やせる野菜 / 若返る野菜の植物工場も!? – パナソニックの次世代農業 – ASCII.jp であり、植物工場事業には深刻な問題が伴うことが明らかになってきました。

  • 高コスト
    完全制御型植物工場の場合、年間の運用コストのうち照明・空調・ヒートポンプなどの施設償却費用、光熱費が5割以上を占める [ 2 ]植物工場のコストの実態 −タイプ別コスト− – 経済産業省
  • ノウハウ不足
    温度や二酸化炭素など複数の要因により生育速度や重量が変動し収穫量が安定しない
  • 露地栽培ものと差別化できない
    露地栽培されたものと同価格では採算がとれないが、無農薬・安全性以外の付加価値に乏しい

しかしパナソニックや富士通など、農業分野以外から参入した電機大手ではこういった問題を乗り越え、植物工場事業が軌道に乗りつつあります。

製品工場の転用

半導体工場の転用

電機メーカーには工場運営で培った照明・空調制御、独自の機械設備開発、省エネ技術があり、多額の初期設備投資をすることなく植物工場に転用することができました。

それに加えて植物の成長に必要な LED や二酸化炭素濃度管理のための各種センサーに関する技術も、電機メーカーの得意分野にあたります。

海外メーカーとの競争に敗れたことで半導体工場が遊休状態となったという事情もあり、植物工場への転身は計画的なものではなかったかもしれませんが、設備面だけを見れば参入障壁は低かったといえます。

農業の専門家はいらない?

倒産した「みらい」創業者の嶋村茂治さんは大学で園芸学を学び、創業以降も栽培システムを開発してきた専門家であり、2012 年のインタビューでは「ハード(=設備)の部分以上に、ソフト(=栽培ノウハウ)が重要」と語っていました [ 3 ]大企業が続々参入 植物工場は儲かるか – 東洋経済オンライン

農業を専門とする同社でも困難であった栽培ノウハウの確立を、電機メーカー各社は製造業における業務改善や品質管理の経験に加え、 ICT (情報通信技術)を活用することで克服してきました。

富士通が運営する低カリウムレタス工場の約 30 人の従業員はほぼ全員が半導体生産の経験者で、農業出身者はいないそうです [ 4 ]レタスを作る半導体工場!? 植物工場は製造業を救う切り札になるのか – MONOist 。最適な生産ができる状況を見極めるには「さまざまなデータを取り、そのバランスを見つけていく必要がある。そういう地道な取り組みを行うには製造業の技術者の方が向いている」とは工場の運営担当者の言葉です。

工場における植物生産では従来の農業知識や経験をそのまま活用することができません。失敗とデータ収集の反復による最適化が必要となってくれば、実験を得意とする技術者の方が適任ということでしょう。

機能性野菜「低カリウムレタス」の成功

富士通の低カリウムレタス

採算の合う品種が少ないとされる中で生まれた近年のヒット作が、パナソニックと富士通がともに手がける「低カリウムレタス」です。

富士通は自社工場「会津若松Akisaiやさい工場」で日産 3,500 株の低カリウムレタスを生産 [ 5 ]富士通がレタスを作っている?その最新の野菜生産方法とは – FUJITSU JOURNAL 。パナソニックはエスジーグリーンハウス株式会社が九州に新設した低カリウムレタスの栽培施設に人工光型植物工場システムを納入、今月から出荷を開始する予定です。

低カリウムレタス」はカリウムの含有量を 20 %以下(98mg/100g以下)に抑えたレタスで、価格は通常のレタスより 3~4 倍と割高ですが、カリウム摂取を制限されている腎臓病の人でも生食が可能です。

国内では定期的な人工透析が必要な透析患者数が 30 万人、慢性的な腎臓病患者が国内では 1300 万人と言われ潜在的なニーズが高く、安定した需要が見込めます。

特定の成分含有量をコントロールした機能性野菜は収益面でも期待ができ、当面の植物工場におけるトレンドになると予想されます。

研究から実用フェーズへ

パナソニックの「人工光型植物工場システム」は 2012 年から研究を開始しており、「(1)省エネ・解析・光学技術とそれらを融合した植物育成制御技術、(2)照明・空調をはじめとする環境制御技術、(3)ナノイーを活用した菌抑制技術、(4)通信・ネットワーク技術」が融合されているといいます。前述のエスジーグリーンハウスへの「人工光型植物工場システム」の納入が初の大型納入になります。

富士通では主力の ICT (情報通信技術)事業と農業の融合をかねてからすすめており、直営工場の運営に加え農業経営を効率化させる食・農クラウド「Akisai」シリーズとして蓄積したノウハウが結実しつつあります。

海外への進出

Panasonic vege life

Panasonic製のサラダ

パナソニックは昨年 11 月からシンガポールの屋内野菜工場で育てた『Veggie Life』ブランドの野菜販売を開始しています。

国土が東京 23 区ほどしかないシンガポールでは、食料を海外からの輸入に依存しており食料自給率は 1 割ほど。野菜工場で生産された野菜は現地でも割高ですが、日本と同様に中国産野菜の安全性には不安を抱いており、所得水準の高い消費者は工場産の野菜を買い求めるため好調な売れ行きを見せています。

同社では 2015 年に年間 81 トンだった生産能力を拡大し、今年はシンガポールで年間に生産される野菜の 5% にあたる 1,000 トンの供給を目指しています。

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