植物工場

東芝が植物工場閉鎖、富士通やパナソニックは海外展開進める

東芝が運営していた神奈川県横須賀市にある完全人工光型植物工場「東芝クリーンルームファーム横須賀」が12月末をもって閉鎖されます。これにより、東芝は野菜生産・販売事業から撤退することになります。

東芝クリーンルームファーム横須賀は旧フロッピーディスク工場の遊休施設で、 2014年11月から植物工場として転用稼働を開始、レタスやベビーリーフなどを生産していました。

富士通・パナソニックと東芝の明暗

閉鎖の理由は「露地栽培の野菜より価格が高いため販売が伸びず、赤字が続いていた」(時事通信、東芝広報)ためとされていますが、同じく大手の電機メーカーである富士通、パナソニックが手がける植物工場事業は好調に規模を拡大しています。

高いランニングコスト

パナソニックは今年の「国際次世代農業EXPO」で蛍光灯を LED に変えることで 2 割、さらに光の有効活用や空調最適化などを組み合わせることで 6 割のランニングコスト削減を実現したと発表しています。

しかし東芝クリーンルームファーム横須賀では蛍光灯をメインとしており、エネルギーコストは依然高いままでした。工場運営を続ければ続けるほど、赤字が続く状態を最後まで脱却することができなかったのです。

露地物との差別化の失敗

東芝が生産した野菜は「農薬不使用」「食の安全性」を武器に、高付加価値サラダと銘打ったブランド「Salad Cafe」を百貨店などで販売していましたが、やはり割高感を解消することはできませんでした。

富士通やパナソニックは機能性野菜「低カリウムレタス」を早くから生産し、露地物野菜との差別化を進めています。東芝でも当初の計画ではポリフェノールやビタミンCを通常よりも多く含む機能性野菜を栽培するとされていましたが、機能性野菜を全面に押し出すことはありませんでした。

計画2015年10月23日付の東芝HPに、植物工場を手掛けた社員のインタビューが掲載されています。

「同じような植物工場で作られているからこそ、他社と差異化できる特長を持たせた野菜を作っていこうというのが一般的な考え方です。」「しかし、機能性野菜は一時的な話題にはなるものの、継続した需要の喚起にはつながらないのではないかと考えています」「おいしいと感じる野菜を、安定して安く作ることに私たちの科学の力を注力するべきだというのが私の考えです」(東芝HPより

植物工場事業の黒字化には、レタス換算で日産約 200kg の出荷が必要と言われます。露地物との競合が続く中で黒字化可能なほどの販路を開拓できなかったこと、ランニングコストを抑えられない状態で理想を追い求めたことが失敗へ繋がりました。

東芝本体による植物工場の運営は一旦幕を引きますが、これまでに培った照明、温度・湿度制御、遠隔監視システムなどの知見・経験を活かした事業は継続するとのことなので、東芝の技術力が形を変えて結実することに期待したいところです。

富士通、パナソニックは海外への展開進める

一方で植物工場ビジネスが好調な富士通は、 11月にフィンランドで植物工場を運営する新会社を設立すると発表しました。冬場の日照時間が極端に短いという地理的な制約から、フィンランドでは野菜の輸入量が多いことで知られています。

また以前紹介した通り、パナソニックは食の安全に消費者の意識が高まるシンガポールでの植物工場事業を拡大するなど、両社は国内での成功経験を元に海外へと事業を拡大。

日本国内では野菜の安定供給・無農薬というメリットだけでは露地物に対する優位性を確保することはできませんが、海外に商機を見出しつつあります。

ロシアを舞台とした植物工場も

ハバロフスク 植物工場

極東ロシアのハバロフスクでは、日揮とロシア資本などの合弁企業である JGC エバーグリーンによる植物工場が稼働しており、すでに今春から野菜の販売が開始されています。

ハバロフスクでは最低気温が零下 30 度と農業に不向きな土地ですが、天然ガス資源が豊富なロシアではエネルギーコストが日本の 1/5 ほどに抑えることができます。野菜の出荷価格は 30% 程割高ではあるものの、日本品質に好調な引き合いがあるとのこと。

今後は 2020 年までに植物工場の敷地面積を約 4 倍に拡大し、ロシアの他の地域にも販売を広げていく予定です。