植物を愛でるあまり、眺めるだけに飽き足らず触ってしまうことはありませんか?艶々とした葉っぱ、張り詰めた幹肌、触れてその感触を確かめてみたい - そのような衝動に駆られることはままありますが、残念ながら堪えなければならないようです。
オーストラリアのラ・トローブ大学ジム・ウィーラン教授(Jim Whelan)らが The Plant Journal に2018年12月に発表した調査結果 によると、植物への接触は成長を阻害し、繰り返して軽くタッチした場合には最大 30 %も成長が抑制されてしまうことがあるそうです。
接触は植物の成長を遅らせる
- 外部からの接触を受けると、植物は攻撃されていると反応し免疫システムが活性化する
- 免疫システムは本来植物が成長に用いるエネルギーまで消費してしまい、成長が抑制される
記事の主執筆者であるジム・ウィーラン教授によると、植物は接触することにより免疫システムが活性化され遺伝子レベルで変化が生じるといいます。
実験に用いられたシロイヌナズナでは、接触から30 分以内にゲノムの 10 パーセントが変化しました。この遺伝子の活動により植物は莫大なエネルギーを消費し、本来は植物が成長に用いるはずだった分のエネルギーまでが失われてしまうのです。
植物はあらゆる接触に対して反応
人間が指でタッチするだけではなく、昆虫や動物、植物同士による接触ですらも同様の反応を引き起こします。 そしてそれは生物に限られません。今回のウィーラン教授らの実験においては、ペイントブラシが用いられています。
イネなどの植物は昆虫からの食害を受けた際に防御遺伝子が発現することが知られていますが、生物以外の単純な接触に対しても同様の遺伝子レベルの強い反応を示すことが確認されました。
なぜあらゆる接触に対してこれほどの反応を示すのかは完全に解明されていませんが、接触への反応のみを弱めて成長に費やすエネルギーのロスを減らすことができれば、食料となる農作物の生産量増加に繋がると考えられています。
接触形態形成のメカニズム解明進む
植物に物理的な刺激を与えると成長が阻害されること自体は 1970 年代に明らかにされており、オハイオ大学の植物生理学者マーク・ジャッフェはこの事象を「接触形態形成」と命名しました。
「接触形態形成」が起こるのは主に成長を抑制するエチレンが合成されるためと言われていましたが、遺伝子技術の発達とともにこの分野の研究もさらに進んでいくことでしょう。
農作物などはある程度大きくなる必要があるわけですが、園芸種は必ずしも大きくなる必要はありません。極端な例が盆栽で、様々なストレスをかけて成長を抑制します。
近年流行している塊根植物なども、自生地では過酷な環境で強風に晒されずんぐりと幹の締まった形状をしています。サーキュレータで緩い風を当てることが推奨されているのも、風による接触形態形成を起こし徒長を防ぐためかもしれません。